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台風で休業させたら休業手当は必要か? ―「天災だから不要」とは限らない実務の判断基準

8月20日
読了時間: 6分

はじめに


8〜9月は台風の影響で、やむを得ず休業や早退・出勤見合わせの判断を迫られる会社が増える時期です。「天災だから休業手当は要らない」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。本記事では、休業手当の要否を分けるポイントを、労働基準法と厚生労働省の公式Q&Aに基づいて整理します。



1. 休業手当の基本ルール


労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないと定めています。ただし、天災事変等の不可抗力による休業は、この「使用者の責に帰すべき事由」には当たらず、休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものとされています(出典:厚生労働省「令和元年台風第19号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」)。


つまり、「台風だから」という理由だけで自動的に不可抗力と認められるわけではなく、この2要件を満たすかどうかがポイントになります。



2. ケース1:事業場の施設・設備が直接被害を受けた場合


台風による水害等で事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果として休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外にあり、通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けられない事故に該当すると考えられるため、原則として不可抗力にあたり、休業手当の支払義務は生じないとされています(同Q&A)。



3. ケース2:施設に被害はないが、取引先・交通機関の影響で休業させた場合


判断が難しいのは、こちらのケースです。事業場の施設・設備には直接的な被害がなく、取引先や鉄道・道路の被害により原材料の仕入れや製品の納入等ができなくなったために休業させる場合は、「原則として『使用者の責に帰すべき事由』による休業に該当すると考えられる」としつつ、例外的に不可抗力の2要件を満たせば休業手当は不要ともしています。そしてその判断は、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を「総合的に勘案する」とされています(同Q&A)。


正直なところ、このQ&Aは「原則と例外」という枠組みと考慮すべき要素は示していますが、「どこまで満たせば例外にあたるか」という線引き自体は示していません。個別のケースを一義的に断定できる基準ではなく、最終的には労働基準監督署や裁判所が個別事情を見て判断する余地が残る領域になります。


だからこそ、「不可抗力だから支払わない」と自社だけで断定するのはリスクが高いと言えます。判断に迷う場合は休業手当を支払う(あるいはそもそも出勤扱いとして通常の賃金を支払う)ことを基本とし、個別の状況については最寄りの労働基準監督署に確認するという対応が現実的です。



4. 従業員個人が出勤できない場合はどうか


会社は通常どおり営業するものの、一部の従業員だけが出社できないような場面では、全社的な休業を判断するほどではないということもあります。この場合は、会社が「休業させた」のではなく従業員側の事情による欠勤にあたるため、休業手当の議論とは別の整理になります。このような場合の賃金の支払については、まず労働契約や就業規則等に定めがあればそれに従い、定めがない場合は労使で十分に話し合い、労働者の不利益をできる限り回避するよう努めることが大切であるとされています(同Q&A)。


具体的には、出社できない従業員を欠勤として扱いつつ、本人が有給休暇の取得を希望すれば柔軟に認める、という方法も、休業コストを抑える選択肢の一つです。ただし有給休暇は労働者本人の請求に基づくものであり、会社側が取得を強制することはできません。また、欠勤扱いが「休むと評価上不利益になる」というプレッシャーとして働き、無理な出社を招くようでは安全配慮義務の観点から本末転倒になります。自然災害による欠勤・遅刻は皆勤や人事評価に影響させない旨をあわせて周知しておくことが望ましいでしょう。


なお、休業手当は労働基準法上の最低基準(平均賃金の6割以上)であり、就業規則や労使慣行で天災による休業についても手当を支払うと定めている場合は、その定めに従う必要がある点にも注意が必要です。台風のたびに取扱いを変える運用は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります(同Q&A)。



5. 休業手当の金額はどう計算するか


休業手当は「平均賃金の100分の60以上」ですが、この平均賃金は労働基準法第12条に基づき、原則として休業させる日の直前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って算出します。この計算過程で生じる1銭未満の端数は切り捨てます。例えば、直前3か月間の賃金総額が90万円、暦日数が92日であれば、平均賃金は90万円÷92日=9,782円60銭(銭未満切り捨て)です。実際に支給する休業手当の金額を計算する際は、1円未満の端数を四捨五入するため、9,782円60銭×60%=5,869.56円→5,870円となります。時給制・日給制の従業員は稼働日数が少ない月があると平均賃金が過小になりやすいため、最低保障額(直前3か月の賃金総額÷労働日数×60%)との比較も必要です。


なお、休業手当はあくまで法律上の最低基準であり、就業規則や労働契約でこれを上回る手当を定めている場合は、その定めに従う必要があります。



6. 実務上のポイント


休業を判断する際は、代替の勤務体制(在宅勤務等)を検討したか、休業回避のためにどのような努力をしたかを記録に残しておくと、後日の判断の際に重要な材料になります。


もっとも実務上は、欠勤控除をしたうえで平均賃金の6割を計算して休業手当として支給するという精緻な処理まで行っている会社は必ずしも多くなく、台風が接近するたびにその場で「明日は休業にする」と判断し、通常の賃金をそのまま支給する会社も少なくないようです。1〜2日程度の休業であれば、6割計算の事務コストに加え、台風の中で無理に出社しないことが欠勤扱いになることへ釈然としない思いを持つ従業員も少なくないでしょうから、従業員との信頼関係という観点でも、通常の賃金を支給する対応には一定の合理性があります。ただ、その都度の判断となると対応にばらつきが出やすいため、余裕があれば就業規則などに基本方針を定めておけるとより望ましいといえるでしょう。


なお、激甚災害に指定されるような大規模・広域的な災害の場合は、雇用調整助成金の特例措置が実施されることがあります。ただし通常の1〜2日程度の台風による短期の休業では、生産量・売上高等の指標が一定期間にわたって落ち込んでいることを前提とする通常の支給要件を満たすことは考えにくく、この助成金が実務上の選択肢になる場面は限定的です。



まとめ


台風による休業がすべて「不可抗力だから休業手当不要」となるわけではなく、事業場の施設・設備が直接被害を受けた場合は原則不可抗力にあたる一方、施設に被害がなく取引先や交通機関の影響にとどまる場合は、原則として休業手当の支払義務が生じ、例外的に不可抗力と認められるには休業回避の努力など総合的な事情が問われます。従業員個人が通勤できずに欠勤する場合は、休業手当とは別に就業規則の定めや労使の話し合いによって対応することになります。台風シーズンを迎えるにあたっては、自社の就業規則や過去の対応を今一度確認しておくことが大切です。



 
 
 

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