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歩合給・インセンティブの社会保険料、正しく計算できていますか? ―「社保逃れ」報道から学ぶ標準報酬月額の基本

8月10日
読了時間: 5分

はじめに


2026年7月、生命保険・損害保険を扱う販売代理店で、社会保険料の納付額を不適切に抑えていた疑いがあると報じられました。給与を固定給と歩合給に分けて支払い、歩合給部分を社会保険料の算定対象から外していた、というものです。当該企業側は「社会保険労務士に相談し、年金事務所にも確認のうえで固定給のみを対象とした」と説明しているとされていますが、悪意の有無はともかく、歩合給・インセンティブ給がある会社であれば他人事ではない論点です。


そこで本記事では報道の詳細には立ち入らず、歩合給や業績給がある従業員の社会保険料を、どう計算するのが正しいのかを、法律の条文と日本年金機構の公式資料に基づいて今一度整理をしてみました。



1. 標準報酬月額とは何か


健康保険・厚生年金保険の保険料は、毎月の給与額をそのまま使うのではなく、一定の幅で区分した「標準報酬月額」に当てはめて計算します。日本年金機構は次のように説明しています。


厚生年金保険では、被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定した標準報酬月額を、保険料や年金額の計算に用います。

この標準報酬月額は、原則毎年1回、4〜6月に支払われた報酬の平均額をもとに見直されます(定時決定・算定基礎届)。また、昇給・降給などで固定的な賃金が大きく変わった場合には、その都度見直されます(随時改定・月額変更届)。



2. 「報酬」に含まれるもの・含まれないもの


ここが今回の報道の核心となる部分ですが、健康保険法・厚生年金保険法は「報酬」を次のように定義しています。


厚生年金保険法第3条第1項第3号

報酬 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

健康保険法第3条にも、ほぼ同一の文言で「報酬」が定義されています。ここで軸になっているのは「労働の対償」であるかどうかという一点です。支給の名称や、固定給か歩合給かという支給形態は、含めるか除外するかの基準にはなりません。 毎月支給される歩合給・インセンティブ・出来高給は、「労働の対償として毎月受け取るもの」である以上、原則として報酬に含まれます。


一方で、「労働の対償」に当たらないものは、そもそも報酬の定義に該当しないため対象外になります。代表例が、出張旅費など事業主が本来負担すべき費用を従業員が立て替えて精算する実費弁償と、慶弔見舞金など事業主が任意で行う恩恵的給付です。日本年金機構の事務取扱いの事例集では、次のように説明されています。


事業主が負担すべきものを労働者が立て替え、その実費弁償を受ける場合、労働の対償とは認められないため、報酬等・賃金に該当しないこととされています。

つまり除外事由は、条文が明示する①臨時に受けるもの、②3か月を超える期間ごとに受けるもの(賞与)だけではなく、その手前の段階で「そもそも労働の対償に当たるか」という判定があります。実費弁償や恩恵的給付は、①②のどちらにも形式的には当てはまらないように見えても、対償性そのものがないために報酬から除外される、という整理です。


実務でとくに紛れやすいのは、名目上「手当」となっているものです。就業規則や給与規程に支給基準が定められ、経常的に支給される手当(住宅手当、家族手当、資格手当など)は労働の対償として報酬に含まれる一方、都度実費を精算するだけの立替金や、慶弔・災害見舞金のように支給基準が労働と結びついていないものは報酬に含まれません。判断に迷う場合は、①支給に労働契約・給与規程上の根拠があるか、②金額が労働の量や成果と連動しているか、③実費の精算にとどまらないか、という観点で確認するとよいでしょう。



3. 具体的な計算例(協会けんぽ三重支部・令和8年度)


固定給20万円、歩合給が月平均30万円、40歳未満(介護保険料の負担なし)の従業員を例に比較します。保険料率は協会けんぽ三重支部の令和8年度の健康保険料率9.77%、厚生年金保険料率18.3%を使用して計算した場合、歩合給を含めるかどうかで、以下の通り計算結果は大きく異なってきます。


  • 誤った取り扱い(歩合給を除外、標準報酬月額200,000円で届出・17等級) 健康保険料(全額)19,540円/厚生年金保険料(全額)36,600円 → 合計56,140円(本人負担はその半分の28,070円)

  • 正しい取り扱い(固定給+歩合給の合計50万円で標準報酬月額500,000円・健康保険30等級/厚生年金27等級に決定) 健康保険料(全額)48,850円/厚生年金保険料(全額)91,500円 → 合計140,350円(本人負担は70,175円)

※等級・保険料額は協会けんぽ三重支部の令和8年度保険料額表に基づく目安です。実際は残業代などその他手当の有無等によって変動しますので、実務では最新の保険料額表をご確認ください。



4. 届出漏れがあった場合のリスク


年金事務所の調査等で報酬の届出漏れが判明した場合、保険料は原則として過去に遡って徴収されます。保険料の徴収権の消滅時効は2年です(厚生年金保険法第92条、健康保険法第193条)。対象となる従業員が多いほど追加負担は大きくなり、従業員側の標準報酬月額の記録訂正も必要になります。



まとめ


社会保険法上の「報酬」に当たるかどうかは、名称や支給形態ではなく、あくまで「労働の対償」といえるかどうかで判断されます。固定給・歩合給という支払方法の違いは除外の理由にならず、毎月支給される歩合給は原則として報酬に含まれる一方、実費弁償や恩恵的給付は、そもそも労働の対償に当たらないためこの定義から外れます。歩合給や各種手当がある会社は、算定基礎届・月額変更届の際にこれらを正しく合算できているか、この機会に再度点検されることをおすすめします。



 
 
 

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