top of page

秋、社員の給料から引かれる金額が変わる──算定基礎届と社会保険料改定について

9月10日
読了時間: 5分

はじめに──「社会保険料が変わった」は毎年起きている


「給料は変わっていないのに、社会保険料の引かれる金額が増えているんですが……」


毎年秋(9月〜10月)になると、こうした問い合わせが従業員から届く会社は少なくありません。担当者としては毎年のことでも、従業員にとっては突然手取りが変わったように感じられるため、戸惑うのも無理はありません。


この変化の原因は、7月に提出した「算定基礎届」の結果が9月分の保険料から改定されるためです。なお、保険料の控除タイミングは会社によって異なります。「翌月徴収」(その月の保険料を翌月の給与から控除する方式)を採用している会社では、9月分の保険料は10月支給の給与明細に反映されます。徴収の方式によって従業員が変化に気づくタイミングが変わるため、担当者はあらかじめ自社の運用を確認しておくと安心です。


毎年繰り返されるサイクルではありますが、「なぜ変わるのか」「自分の会社は正しく手続きできているのか」を改めて理解しておくことは、経営者・人事担当者を問わず重要です。今回はその仕組みと、9月に向けて押さえておきたいポイントを整理します。



そもそも「算定基礎届」とは何か

社会保険料は「標準報酬月額」という区分をもとに計算されます。これは実際の給与額をそのまま使うのではなく、一定の幅(等級)に当てはめた金額のことです。


この標準報酬月額は入社時に決定されますが、その後給与が変化しても、自動的に見直されるわけではありません。そこで設けられているのが、毎年1回行う定期的な見直し(定時決定)の手続きです。これが「算定基礎届」です。


具体的には、4月・5月・6月の3ヶ月間に支給された報酬の平均をもとに標準報酬月額を算出し、7月1日〜10日を提出期限として年金事務所へ届け出ます(提出期限については毎年の通知で確認が必要です)。この届出をもとに見直された標準報酬月額が、9月から翌年8月までの1年間適用されます。



「4・5・6月の給与が高いと損をする」は本当か

算定基礎届の仕組みが知られるようになったことで、「4〜6月の残業を減らせば社会保険料が安くなる」という話を耳にすることがあります。これは制度上の事実ではありますが、いくつかの点で注意が必要です。


まず、社会保険料は会社と従業員が折半で負担します。残業を抑制すれば従業員の保険料負担は下がりますが、残業代そのものも減るため、手取りが単純に増えるわけではありません。それよりも、特定の時期に残業が集中しないよう業務を平準化することの方が、従業員のモチベーション維持という観点からも、より本質的な対応といえます。


また、社会保険料の計算に使われる報酬には、基本給・各種手当・通勤手当など幅広いものが含まれます(賞与や臨時に支払われるものは除く)。制度の趣旨を逸脱した意図的な操作は、後日のトラブルにつながる可能性もあります。


「4〜6月の給与水準が標準報酬月額に影響する」という事実は知っておく必要がありますが、それよりも大切なのは、正しい報酬を正しく届け出ているかどうかの確認です。



改定に向けて、経営者・担当者が確認しておきたいこと

算定基礎届はすでに7月に提出済みですが、9月の給与計算に向けて今のうちに確認しておくべきポイントがあります。


標準報酬月額の改定通知を確認する

年金事務所から「標準報酬月額決定通知書」が届きます(電子申請の場合はe-Gov等で確認)。これをもとに9月分の社会保険料が変わります。改定内容を給与計算システムや担当者にきちんと反映させることが第一歩です。

従業員への説明を準備する

「給料が変わっていないのに手取りが減った(または増えた)」という問い合わせは毎年発生します。保険料が反映される給与明細が出る前に、社内への一言案内があるだけで混乱を防ぐことができます。翌月徴収の会社であれば10月の給与明細が対象になりますので、そのタイミングに合わせて案内するとより親切です。

随時改定(月額変更届)との違いを整理する

算定基礎届は毎年1回の定期的な見直しですが、昇給や降給など固定的な給与の変動が一定以上あった場合には、時期を問わず「随時改定(月額変更届)」が必要になります。4〜6月以降に固定給に大きな変化があった社員がいる場合は、改めて確認が必要です。

保険料率の変更がないかも確認する

標準報酬月額が変わらなくても、保険料率の改定によって社会保険料が変わることがあります。2026年3月分(4月納付分)から協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率が改定されており、さらに2026年4月分(5月納付分)からは子ども・子育て支援金の徴収も新たに始まっています。これらがすでに給与計算に正しく反映されているかどうか、この機会に念のため確認しておくと安心です。



中小企業でよくある「うっかりミス」

算定基礎届の実務において、規模の小さな会社ほど見落としやすいポイントがいくつかあります。


一つ目は、通勤手当の計上漏れです。算定基礎届に含める報酬には通勤手当も含まれますが、給与計算の担当者が変わったタイミングなどで見落とされることがあります。


二つ目は、支払基礎日数の確認不足です。算定に使う月は原則として支払基礎日数が17日以上の月に限られます(パートタイム労働者は異なる基準が適用される場合があります)。4〜6月のいずれかに長期休暇があった社員がいる場合は、その月を除いて計算するケースもあるため注意が必要です。


三つ目は、育児休業明けの社員の扱いです。育児休業等を終えて職場復帰した場合には、特例の規定が設けられています。通常の算定とは異なる取り扱いになるため、該当する社員がいる場合は個別に確認が必要です。



まとめ──「毎年のこと」だからこそ、丁寧に

算定基礎届と9月の社会保険料改定は、毎年繰り返されるルーティン業務です。だからこそ「いつも通りやればいい」という感覚で見落としが生まれやすいテーマでもあります。


社会保険料は会社と従業員の双方が負担するコストであり、誤りがあれば遡及して修正が必要になることもあります。「提出した」で終わりにせず、9月の改定内容を確認し、給与計算への反映と従業員への案内まで一連の流れとして対応することが大切です。



 
 
 

コメント


bottom of page