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去年から「罰則付き義務」に変わった改正労働安全衛生規則を踏まえた、職場の熱中症対策

はじめに


2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が罰則付きの法的義務となりました。それまで「努力義務」とされていた対策の多くが、違反すれば6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となる義務へと格上げされたのです。

義務化からちょうど1年が経過した今夏も、引き続き対策の徹底が求められています。厚生労働省の統計では、職場における熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は増加の一途をたどっており、2023年(令和5年)には1,106件、2024年(令和6年)にはさらに増加して1,257件(前年比約14%増)と過去最高水準で推移しています。

この記事では、改正規則の内容をおさらいしながら、社労士の視点で今夏に備えるべき対策を解説します。


1. 2025年6月改正:何がどう変わったか


改正のポイント:「努力義務」から「罰則付き義務」へ

改正前は、暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)の管理や緊急時対応の手順整備などは推奨・努力義務にとどまっていました。改正後は、一定の作業条件を満たす現場において、以下の3つの対応が事業者の法的義務となりました。

義務の内容

概要

①「見つける」体制整備

熱中症の恐れがある労働者を早期発見し、社内で報告するための体制を整備する

②「対処する」手順の作成

重症化を防ぐための応急処置や医療機関への搬送など、対処手順を文書化する

③「周知する」

上記の体制・手順を、関係する労働者全員に周知する

義務化の対象となる作業条件

すべての職場が対象ではなく、以下の条件を両方満たす作業が対象です。

  • 暑熱環境:WBGT値が28℃以上、または気温が31℃以上

  • 作業時間:連続して1時間を超える作業、または1日の合計作業時間が4時間を超える作業

建設・土木・製造・農業といった屋外・高温作業はもちろん、厨房・工場内の高温環境での作業なども該当します。また夏季のオフィスや店舗でも、空調の不具合や節電対応などで条件を満たす場合があることに注意が必要です。


罰則

義務に違反した場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法第119条)。


2. 熱中症は「業務上疾病」として労災認定される


改正規則と合わせて押さえておきたいのが、熱中症が労働災害(労災)として認定される疾病だという点です。

業務中に発症した熱中症は「業務上疾病」(労働基準法施行規則別表第1の2)に該当し、労働者災害補償保険(労災保険)の給付対象となります。労災認定されれば、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付などが請求に応じて支給されます。

要件

内容

業務遂行性

業務中に発症したこと

業務起因性

高温・多湿な業務環境が原因であること

さらに、義務化により対策を怠っていた事実が明らかになると、罰則にとどまらず、事業者の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)による民事上の損害賠償責任を問われるリスクも高まります。


3. 改正規則を踏まえた具体的な対策


義務化された3項目を起点に、実務上取り組むべき対策を整理します。


① 体制整備:「見つける」仕組みをつくる

  • WBGT値の日常的な測定:測定器を設置し、数値に応じた対応基準(警戒レベル)を定めて掲示する

  • 異常時の報告ルートの明確化:「誰が・誰に・どのように報告するか」を文書化し、現場に掲示する

  • 管理監督者による声かけ:出勤時の体調確認、こまめな様子観察を徹底する

  • 休憩場所の確保:冷房の効いた休憩室・日陰スペースを設ける


② 手順作成:「対処する」マニュアルを整備する

以下の内容を盛り込んだ緊急対応マニュアルを作成し、全員が閲覧できる場所に掲示しましょう。

【熱中症発症時の対応手順(例)】
※出典:厚生労働省 職場における熱中症予防情報サイト等をもとに作成

Step1:発見・報告
  → 体調不良者を発見したら直ちに管理者に報告

Step2:涼しい場所への移動
  → 冷房の効いた部屋・日陰へ移動させる

Step3:体の冷却
  → 首・脇・太腿の付け根を冷やす、濡れたタオルで皮膚を冷やす

Step4:水分・塩分補給
  → 自力で飲める場合は経口補水液・スポーツドリンクを補給

Step5:重症度の判断・119番通報
  → 意識がない・呼びかけに反応しない場合は即座に救急車を要請

③ 周知:「知らなかった」では通らない

  • 義務化の内容・報告体制・緊急手順を、入職時・シーズン前・定期的に全従業員へ教育する

  • 衛生委員会や安全委員会で毎年審議し、議事録に残す

  • 新規・派遣・外国人労働者などへの個別周知も徹底する


4. 義務の範囲を超えて取り組む「プラスアルファ」の対策


義務化された3項目はあくまで最低ラインです。実際の熱中症予防には、以下の対策も不可欠です。


作業管理

  • 気温が高い時間帯(特に午前10時〜午後3時)の屋外作業を短縮・回避する

  • 定期的な休憩時間を設け、クールダウン時間を確保する

  • 水分・塩分補給のルールを明文化する(厚生労働省の目安:0.1〜0.2%の食塩水またはナトリウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク等を、20〜30分ごとにコップ1〜2杯程度。作業強度や環境によって必要量は異なる)

  • 通気性・遮熱性の高い作業服や帽子、冷却グッズを支給する


健康管理

  • 既往症(高血圧・糖尿病・心疾患など)や服薬状況を把握し、リスクの高い従業員に配慮する

  • 暑熱順化に配慮する:特に配属直後の労働者、休暇明けの労働者は要注意。暑熱順化には個人差があるが、数日〜2週間程度かかるとされており、計画的に暑熱順化期間を設けることが要綱でも求められている


設備改善

  • スポットクーラー・ミストシャワー・遮熱シートの導入

  • 冷房設備の定期点検とフィルター清掃(夏前に必ず実施)


5. 中小企業でも使える支援制度


設備導入の費用が気になる事業者の方は、「エイジフレンドリー補助金(高年齢労働者安全衛生対策補助金)」などで、WBGT測定器やスポットクーラー等の購入費用が補助される場合があります。助成金・補助金の対象・要件は年度により変わりますので、申請前に必ず最新情報をご確認ください。


6. チェックリスト:改正規則への対応状況を確認しよう


【義務化対応】
□ 1. 自社の作業が「義務化の対象となる作業条件」に該当するか確認した
□ 2. 熱中症の疑いがある労働者を早期発見・報告するための体制を整備した
□ 3. 発症時の応急処置・医療機関への搬送手順を文書化した
□ 4. 体制と手順を全労働者に周知した

【推奨対策】※厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日基発0420第3号)に基づく
□ 5. WBGTまたは気温・湿度を測定する体制が整っている
□ 6. 冷房の効いた休憩場所がある
□ 7. 水分・塩分補給のルールが明確になっている
□ 8. 新規・若年・休暇明け労働者への暑熱順化の配慮をしている
□ 9. 管理職が熱中症の初期症状を把握している
□ 10. 熱中症対策が衛生委員会・安全委員会で審議されている

特に1〜4に「✗」がある場合は、罰則リスクがある義務違反の状態です。早急に対応しましょう。


おわりに


義務化から1年が経ちましたが、「形だけ整えた」状態では実際の熱中症は防げません。体制・手順が現場に根付いているか、今一度見直すタイミングです。当事務所では万一、従業員が業務中に熱中症で倒れた場合の労災手続きのサポートはもちろん、改正規則への対応状況のチェック・就業規則や社内規程の整備まで、トータルでご支援します。

「うちは対応できているか確認したい」「労災申請の手続きがわからない」など、どんなご相談でもお気軽にお問い合わせください。



 
 
 

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